不動産投資で差がつくマンション管理法改正の本質とは?資産価値を守る新ルールを読み解く
不確実性の高まりや金利環境の変化により、不動産投資においても長期的な資産管理の重要性が増している。一方で、多くの投資家は利回りや立地に注目する一方、管理体制や法制度の理解が十分ではなく、判断軸が曖昧になりがちである。本記事ではマンション管理に関する法改正を整理し、資産価値を維持・向上させるための視点を提示。長期視点と適切な管理体制の構築が、安定した資産形成を支える要素であることを示す。
マンション関係法が改正に
令和7年5月23日に、とても長い名前の法律が成立しました。
「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」
この長い名前の理由は、「マンション関係法」と呼ばれるいくつかの法律が一括して改正される事になったからです。このうち、「区分所有法」及び「被災区分所有法」の改正に関する部分については、令和8年4月1日から施行されます。ではその主な改正点などについて見てみましょう。
今回のマンション関係法の改正点は
今回の改正の背景には、居住者および建物の「ふたつの老い」が進行している事が挙げられます。築年数が40年以上のマンションが全体の2割あり、今後10年で2倍、20年で3.4倍となると予想されており、主にファミリーマンションではその住戸の世帯主の5割以上が70歳以上となっています。
こうした高齢化に対応して管理をしやすくし、また建替えなどの再生もスムーズに行われるようにしたものです。
管理の円滑化等【施行日:令和8年4月1日】
今回の改正ではマンションを分譲する会社が管理計画をあらかじめ作成しておく事や、管理組合総会の決議がしやすくなるようになりました。また総会で共用部分と専有部分を同時に修繕工事をする事などが決議できるようになりました。
(1)適正な管理を促す仕組みの充実
◯新築時から適切な管理が行われるように、分譲事業者が管理計画を作成し、管理組合に引き継ぐ仕組みを導入
管理規約や長期修繕計画などを分譲会社が作成しておき、新築時から適正な管理がおこなわれるようにするものです。また内容については将来変更もできます。
◯管理業者が管理組合の管理者(代表者)を兼ね、工事等受発注者となる場合に、利益相反の懸念があるため、自己取引等につき区分所有者の事前説明を義務化
これは管理会社が自社に大規模修繕工事などを発注した場合に、その価格が適正かどうかを区分所有者に説明する事務が発生するという事です。
➡分譲時から適正な管理が開始される。大規模修繕工事のコストなどにおいてより透明性が高まります。
(2)集会の決議の円滑化
◯管理組合総会の決議は、集会出席者の多数決による
管理組合の決議は、今までは全区分所有者の多数決でしたが不在者や欠席者がいた場合に決議が成立しない場合も多いので変更されました。出席者には議決権行使書や委任状を提出した者も含みます。また特別決議は別途定められています。
◯裁判所が認定した所在不明者を全ての決議の母数から除外する制度を創設
これは決議の際に所在不明者を含めないという事です。総会の際には欠席者や行方不明者、また区分所有者が死亡した場合に相続人が不明などの場合は決議の母数から除外となります。総会の決議がしやすくなり、修繕工事などの決定も早くなると考えられます。
➡修繕工事などの決定が早くなる事により、投資マンションの収益性も早期に上がる事につながります。
(3)マンション等に特化した財産管理制度
◯管理不全の専有部分・共用部分等を裁判所が選任する管理人に管理させる制度を創設
区分所有者が専有部分や共用部分の管理をせずに他人の権利を侵害する恐れのある場合に、管理人を選定する事が可能となります。また所在不明区分所有者の専有部分の管理も同様です。具体例としては、専有部分にゴミが集積されていたり専有部分の配管が腐食して放置されている場合などや、共用部分で外壁が剥落する恐れがあったり共用部分にゴミが放置されている場合などです。
◯所在等不明区分所有者の専有部分の管理に特化した新たな財産管理制度を創設
管理人は、裁判所の許可を得て、管理対象の専有部分を売却可能となります。
➡管理人の選定により不明所有者による管理不全の防止にもつながります。
(4)専有部分の保存・管理の円滑化
○共用部分の管理・変更と同時にする専有部分の保存・利用改良
規約に特別の定めをすることにより、共用部分の管理・変更と同時にする専有部分の保存・改良を当該共用部分の管理・変更と同等の多数決で行うことができる制度が創設されます。
具体例:共用部分の配管と専用部分の配管を一括して更新しようとする場合(配管の全面更新)など
○他の区分所有者の専有部分の保存請求
自らの専有部分等を保存するために他の区分所有者の専有部分につき自ら保存することを請求することができることが明確化されます。
具体例:他の区分所有者の専有部分の配管からの漏水被害を受けている区分所有者が自らその配管の補修をしようとする場合など
➡共用部分・専有部分を一体として修繕工事する事によりその効果も高まります。また工事が同時にできる事によりコストダウンが図れる可能性も。
○国内管理人
区分所有者が、国内に住所等を有しない場合又は有しないこととなる場合に、その専有部分及び共用部分の管理に関する事務を行わせるため、国内管理人を選任することができる制度が創設されます。
専有部分の変更についても管理組合で決議できるようになり、マンションの維持管理もよりしやすくなります。
➡海外転勤などの際にも、国内管理人を選定する事により不動産投資の運用において「安心感」が得られやすい。
(5)共用部分の変更決議の多数決要件の緩和
○原則的な多数決割合は現行規定(3/4)を維持しつつ、次の事由がある場合には、多数決割合を2/3に引き下げる
- 共用部分の設置・保存の瑕疵により権利侵害のおそれがある場合
耐震性の不足や火災に対する安全性の不足、外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれがあるときなど。給排水管等の腐食等著しく衛生上有害となるおそれがあるときなど。 - バリアフリー化のために必要な場合
具体例1:倒壊等のおそれのある立体駐車場を取り壊して平置きの駐車場とする
具体例2:階段しかない5階建てのマンションにエレベーターを設置する
こうした議決数の緩和により、マンションの危険個所の修繕に迅速に対応できるだけでなく、マンションの性能をより良くする「グレードアップ工事」などもしやすくなります。
➡原状回復のみならずアプリシエーション(資産価値の増大)によりマンションの資産価値アップにもつながる可能性も。
再生の円滑化【施行日:令和8年4月1日】
マンションの寿命も長くなってきていますが、既に老朽化したマンションの建て替えなども重要な課題となってきています。
国内のファミリーマンションにおいては建て替え事例として四ツ谷コーポラスが有名です。また都心型のワンルームマンションとしては「中銀カプセルタワー」が2022年に解体され、高級ホテルに建替えられ2027年に開業予定です。これは高級ホテルの開業するような好立地に投資用マンションが存在したという事です。
これまで建替え決議は4/5の議決が必要となり高いハードルとなっていましたが、建て替えのための議決が緩和されました。
○建替え決議の要件緩和
所在等不明区分所有者の決議の母数からの除外に加え、原則的な多数決割合は現行規定(4/5)を維持しつつ、下記のように一定の客観的事由がある場合には多数決割合を3/4に引き下げられました。
客観的事由:
- 耐震性の不足
- 火災に対する安全性の不足
- 外壁等の剝落により周辺に危害を生ずるおそれ
- 給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ
- バリアフリー基準への不適合
○建替え決議がされた場合の賃貸借等の終了
建替え決議がされた場合に、金銭補償を前提として賃貸借等を終了させる制度が創設されました。但し区分所有者は賃借人に保証金を支払う義務を負います。
○新たな再生手法の創設等
建物・敷地の一括売却、一棟リノベー ション、建物の取壊し等を、建替えと同様に多数決決議(4/5※)により可能となります。
※耐震性不足等の場合:3/4、政令指定災害による被災の場合:2/3
※組合設立、権利変換計画、分配金取得計画等
○多様なニーズに対応した建替え等の推進
隣接地や底地の所有権等について、建替え等の後のマンションの区分所有権に変換することを可能に。耐震性不足等で建替え等をする場合、容積率のほか、特定行政庁の許可による高さ制限の特例。
➡老朽化が激しい、耐震性不足、その他理由のあるマンションでは建替えの議決が緩和されます。また容積率や高さ制限の緩和の特例も受けられる場合があります。こうした事から将来的にもマンションの建て替えや売却、一棟リノベーションなどもしやすくなります。
マンション投資への影響は
以上改正の主な点などについて、全てではありませんが見てきました。
管理がしやすくなるという事は、それだけマンションという資産の価値が維持されやすくなるという事です。投資用マンションのオーナー(区分所有者)の方は、普段そのマンションに居住しておりませんので、管理組合総会にも出席する機会は少ないと思います。管理組合総会では会計報告やルールの変更、大規模修繕工事など、重要な案件を決議する事も多いので、その内容についても知っている事が大切です。
日本ではマンションのストックも多くなり、また都心部ほどマンションは多くなっています。老朽化した住宅が周辺に被害を及ぼす例も発生しており、マンションの老朽化と共に高齢化が進むにつれて所有者の不在なども多くなってきます。今後もマンションの管理は日本の住宅問題として大変重要となってきます。
今回の改正では議決総会の出席者や委任状のみで議決ができるようになるなど、まさに高齢化に対応した改正と言えます。またマンション建て替えの要件の緩和、容積率や高さの特例など建て替えがしやすくなります。特に投資向けのワンルームマンションはその多くが商業地域に建設され、住宅地と比べて容積率が元々高いですが、それに加えて容積率・高さ制限の特例が加わればマンション建て替えの要件が一段と緩和されます。
マンションオーナーは、「マンションは一体何年持つのか」「古くなったら資産価値がどうなるか」「居住者やオーナーの高齢化が進んだ場合に管理が滞りなく進むのか」などという疑問を抱えている訳ですが、今回の法改正ではこうした疑問にも対応していると考えられます。
以上少しでも皆様の参考になれば幸いです。
不動産投資を“知識”から“判断”へ
マンション管理の法改正を通じて見えてくるのは、不動産投資は「買うこと」ではなく「保有し続ける設計」が重要だという点です。そのうえで、次に考えるべき視点を整理しておきましょう。
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執筆:野中 清志(のなか きよし)
住宅コンサルタント|株式会社オフィス野中 代表取締役
マンションデベロッパーでの実務経験を経て、2003年に株式会社オフィス野中を設立。 特定の企業に属さない第三者的な立場から、首都圏・関西をはじめ全国各地でマンション購入に関する講演・コンサルティングを行う。
居住用マンションから不動産投資(資産運用)向けセミナーまで、年間100本近い講演をこなす「マンション選びの第一人者」。膨大な供給データと開発現場への深い知見に基づいた、先見性の高い解説に定評がある。